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クック盗


北新地を歩いたおりにこの看板に出くわし、僕は一気にトーサクの世界に引きずりこまれた。

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創作料理の店ならよく見るが、「盗作料理」とはおだやかじゃない。
岡本真夜をBGMにした上海料理の店か?

訊けば、オーナーシェフが名店と呼ばれる数多くのレストランに足繁く通い、舌で憶えた味を自分なりの解釈で調理したものだという。
それを堂々とカミングアウトするとは、なんという勇気。
ご丁寧に「当レストランの料理は創作に見えて全てシェフによる盗作料理です」という但し書きまである。
しかも店名よりも大きくだ(なんせ一瞬では、店名がどこに書かれているのかわからない)。

料理における「盗作」、これの線引きはとても難しい。
著作権がない世界なので(註・特許はある)、厳密には他店の味を再現しても盗作にはならない。
法では縛れないゆえ「道義」の概念で是非を問うことになる。

『美味しんぼ』にこんなエピソードがあった。

若い板前が中華料理店で、勉強のために素材や調味料をメモしながら食事をしていた。
これを見た中華料理店のシェフが「味を盗んでいる!」と激怒。
ここで「料理における盗作とは」という深奥な議論が巻き起こるが、両者譲らず一方通行に。
結局、山岡のはからいで、そのメモを参考にした新しい和食をご馳走したところ、中華のシェフはそのあまりのおいしさに感激。
すべてを許すこととなった。

これむろん美談だが、もしマズかったら、どうすんの? という気も。
つまり「味を盗むということは、相手のフィールドに決して損害を与えず、さらにとびきりおいしい料理を発明しなければ許されない」ということが言いたかったんだろう、山岡は。
知らんけど。

料理は先人たちの勇気と創意に溢れた「盗作」の歴史でもある。

たとえば日本人が好んで食べる洋食。
これは明治時代、フランス料理を勉強するために海を渡った料理人たちが必死でその味と技法を体得し、帰国して「ごはんに合うように」作り出したもの。
言葉が通じないフランスで、皿をなめ、鍋に残ったソースをねぶり、その味をしっかり舌に叩きこんだ。

こう書くとなんだか盗みっぱなしのようだが、煮込み料理が中心だったフランスに、素材をさっと湯通しして氷水でしめ色鮮やかにする技法を伝えたのは、往時の日本人たちだった。
料理の異種交配だ。
そんな先人たちの苦労をしのびつつ、おいしい料理を「パクリ」といただきましょう。

by yoshimuratomoki | 2010-04-18 23:00 | 大阪府